ミナミチタのイチオシ!

ウミひとココロ物語 第1話

投稿日:2018.06.15 つぶやき

2つの現実

「どうした、最近?」
帰り支度をしていた七海に、上司である小野寺が声をかけてきた。

小野寺は七海がこの会社に入社以来、教育係りとして、ずっと七海の面倒をみてくれていた。入社当時は厳しく、細かなところまで色々と指示されてきたが、ここ数年は七海の成長に合わせて、ある程度仕事を任せてくれていた。だから、どこかいつもと違う七海を気にかけてくれていた。

「別に・・・。自分でもよく分からないんです。いつもどおりやってるつもりなんですが・・・」
最近の七海は、大きなミスこそ無かったが、普段ならしなさそうな些細なミスを繰り返していた。

「そうかぁ~。どこか体の調子でも悪いのかと思ってな。お前くらいの歳だといろんな事があって、なにかと疲れちゃう時もあるだろうから、思い切って有給でも取って、リフレッシュでもしてこいよォ!!」
「なんかあったら、いつでも言って来い!じゃなぁ、お疲れ!!」
そう言って、小野寺はいつもの後ろ姿で、部屋を出ていった。

「有給かぁ~、そう言えばだいぶ、溜まってるよなぁ」
「一緒に行ってくれる人なんていないし、今、行きたいところって言っても特にないしなぁ~」

ぶっきらぼうだが、気にかけてくれている小野寺の存在を嬉しく思いながらも、なんともハッキリとしない自分が嫌になりながら、七海は会社を後にした。

七海は、就職と同時に親元を離れ、ひとり暮らしを始めていた。1年近く付き合っていた彼氏がいたが、お互いに仕事が忙しくなりスレ違いが多くなったことで、双方ともがどことなく疎遠になり、七海の方から分かれを告げ、別々の道を歩む事を決めた。最近の不調が、彼氏との分かれに原因があるとは思いたくなかったし、それだけは違うとはっきりと自分の中で線を引いていた。

帰りの地下鉄の中、いつも乗り込む車両は、家路につくサラリーマンや学生達で普段とおりの混み具合だった。七海は、電車の出発の揺れに耐えようと、吊革をグッと握りしめた。電車が走り出したのを確認すると、その手を緩め、もう片方の手でバックからスマホを取り出し、特に目的もないままフェイスブックを開いた。
七海にとってそれは、いつもの習慣と言うかほぼ無意識のまま行う、クセのような行動だった。登録だけはしたものの、フェイスブックやインスタグラムといった流行りのSNSに特に興味もなく、ただ、いろんな友達の近況を垣間見れるだけで十分だった。

するとフェイスブックのタイムラインの1番先頭に、幼馴染みの晴子の近況が写し出された。晴子と七海は中学、高校と同じ学校に通い、部活動も同じバレーボール部に所属し共に汗を流してきた。互いの顔を見れば何が言いたいか、口に出さなくても分かり合える程の仲だった。そんな晴子は1年前に結婚し、今は刈谷市に住んでいる。

「旦那が休みだから、内海までドライブゥ~」

フェイスブックの写真には、ドライブしてきたであろう車や、海と共に映る晴子の写真が数枚アップされていた。いかにも晴子らしい、明るさと天真爛漫さが滲み出ている写真達だった。いつも太陽のように明るい晴子が、満面の笑みでこの写真を撮ったんだろうなぁと思うと
「今の私には届かない遠い世界へ行っちゃったなぁ~」と
心の中で何度も溜息をついた。晴子を妬んでいるのではない。一緒に過ごしたあの時代(とき)、同じ空気を吸い、同じように笑い、共に過ごしてきた6年間。大学は別々になったが、互いに就職もした。そして晴子は職場の同僚と結婚し、寿退社。しかし私は彼氏と分かれ、仕事もミスが続いてしまっている。2人のこの現実のギャップを七海は認めざるを得なかった。晴子に嫉妬しても何も始まらないし、何も変わらないと分かっていた。

そんな事が頭の中を過っていると、スマホをスクロールする指はいつしか止まっていた。ふっと顔を上げると電車のガラスに自分の顔が写し出された。
「晴子なら、今の私になんて言うだろう?」

つづく
投稿ライター: 
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